フジテレビによる用語"ハッカー"の誤用に抗議します

 フジテレビ系の99-11-09、19:00〜(2時間)放送の番組:[スーパーニューススペシャル ハッカーに見るネット社会の暗部]では、情報システムへの侵入者を"ハッカー"と呼んでいましたが、これは全くの誤用です。ハッカーはコンピュータのエキスパートを意味する専門用語です。したがって、ハッカーは、悪意の有無を問わずシステムに侵入したりはしません。侵入者たちは"ハッカー"と自称することがありますが、テロリストが聖者を名乗っているからといって聖者でないのと同様に、彼らはハッカーなどではありません。
 フジテレビは、正義の実現を目指す責任をもちながら、反社会的行為に対して尊称を使い、彼らの自尊心を満足させてやっています。  また、このような誤用はインターネットに関する用語法として定められているRFC1983:Internet User's Glossaryに対する違反であり、フジテレビのように広報にインターネットを利用している企業がそれを受け入れることは、インターネットを支えてきた正しい意味でのハッカーたちに対する誠意の欠如にほかなりません。
 フジテレビは、いわゆる"ハッカー"たちへの迎合をただちにやめて、自らの責任を果たしてください


ノート/[三月劇場]

"hack"の語源
すずきひろのぶ

http://www.infonet.co.jp/apt/March/fragm/hacker.html




hacker
もともとはコンピュータに精通した人間を指す。
切り刻む(hack)ようにキーボードを操るところからこの言葉が生まれた。
 なんで、この「切り刻む」説なんていう作り話が日本では信じられているのだろうか?これって、たぶん日本だけではないですか?
 よしよし、解説を書いてあげましょう。


"hack"の語源


 コンピュータの世界でわれわれが"hack"と呼ぶ時、それは非常に優れたプログラミング、または卓越した能力の産物、あるいはそれに至るプロセスを指す[1]

 "hack"という言葉は、古くから使われており、70年代前半に、アメリカの大学へ留学した若き日本人コンピュータ科学者(当時)の証言によれば、その時にはすでに、優れたプログラミングを"hack"と表現していたそうである[2]

 直接的な語源は、古くからMIT(=マサチューセッツ工科大学)で使われている俗語から来ている。MITにおけるそれは、徹底的に凝ったプラクティカルなジョークを指す。優れた"hack"は探究的であるが故に、MITでは"hack"は一流のアートやエンジニアリングの一種として認知されている。MITにおける"hack"は、数多くのノーベル賞受賞者を出している世界最高の頭脳集団の一つであるMITの柔軟な発想の象徴であると言えるだろう。

 MITでは、過去のすばらしい数々のhackとhackerたちの栄誉を讃え、MIT博物館に専用のギャラリーを用意し、定期的に本を出版[3]している。ギャラリーはWWWでも情報をサービスしている。
URL: http://hacks.mit.edu/

 英語の"hack"には「ジャングルの中を切り開いて突き進む」いう意味がある。
ex. hacked his way through the brush
(Webster辞書より)
 "hack"とは、この「道なき道を独力で自分で切り開いてつき進む」というニュアンスが一番近いだろう。


[1] "hack"という言葉は、UNIXのカーネルのソースコード、sendmailのソースコードといった、手ごわいソースコードの中のコメント中で日常的に見る言葉である。あたりまえだが、テレビやマスコミに出て来てハッカーという言葉の誤用を平然としている連中は、一生見る事はないだろうテキストである。もちろん、ソースコードを満足に読めないような三流、四流プログラマも同様であろう。

[2] あえて名前は秘すが、今では日本の計算機科学分野における権威的な肩書を持ち、保守本流的なポジションにいる人である。ただし、個人的には権威的でもないし保守的でもない。お酒を飲めば、ただのテニスフリークのオジサンに変身する。

[3] 最新の本は "Is This The Way To Baker House?" A Compendium Of MIT Hacking Lore, Ira Haverson and Tiffany Fulton-Pearson, MIT Museum Masschusetts Institute of Technology Cambridge, Ma 1996。この本はMITミュージアムが作成しているもので、一般の書籍扱いにはなっていない。直接MITに行かなければ入手できない。


すずきひろのぶ
hironobu@h2np.suginami.tokyo.jp
1998年7月28日

改変なき条件下にて再配布自由

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Version: 2.6.3ia
Charset: noconv
Comment: If this file is text with Japanese, it would be EUC.

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aDR1/DKhZfM=
=xZaC
-----END PGP SIGNATURE-----




転載者注釈

 シェイクスピアの時代なら、確かに"hack"は暴力的なニュアンスをともなって使われていたようです。また、その名残りによるのか、現代でもそのような語法が行われることもあるようです。MITで発生したジャーゴンにちなむ用語が、こういった古語法に基づいて解釈されてしまったことが、誤用の一つの原因かもしれません(東北大学のYAMANE Shinjiさんの指摘)。
 実は、"クラッカー"の方もしばしばまちがって解釈されています。よく、"クラッカー"は壊し屋にちなんでこう呼ばれると解説されていますが、壊し屋は"crasher"で、ちょっと似ていますが全然違います(同じくYAMANE Shinjiさんの指摘)。
 本文にもはっきり書かれていますが、もともとMITのハッキングはコンピュータに関するものには限定されてはいませんでした。たとえば、屋根の上に変なものを苦労して乗せてしまうとか、夜中に大学の聖堂でこっそり結婚式を挙げてしまうとかいったことが"hack"だと了解されているんだそうです(Hironobu Suzukiさんの指摘)。


"ハッカー"問題

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(敬称略)

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