資料シート●各科目
嗅覚と映像表現
http://www.infonet.co.jp/apt/March/syllabus/bookshelf/smell.html
Smell-O-Vision

匂いを出したり止めたりするのは簡単なことではない。特に、映画に特有ないくつかの問題(▽図)を解決しなければならなかった。
必要になったらすぐ匂いを出して必要がなくなったらすぐ匂いが止められるようにしなければならない
(映画の進行に遅れてしまうから)
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場内の観客の全員にちゃんと匂いが届かなければならない
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複数の匂いが使い分けられなければならない
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匂いを出したり止めたりするのは自動的に実行できなければならない
(映画は何回も繰り返して上映しなければならないから)
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Smell-O-Visionにはこれらの問題が解決できる工夫が盛り込まれていた。
Smell-O-Visionは、貯蔵システム(匂いを貯蔵しておく)、輸送システム(匂いを客席に届ける)、制御システム(これらを制御する信号をフィルムから読み出す)の三つの部分から構成されている。
貯蔵システムはドラムの形をしている。このドラムには何本かの瓶が固定されていて、そのそれぞれには、映画の中で使いたい匂いの香料が別々に入れてある。匂いを出さなければならなくなったら、筒を必要な角度だけ回転させて、瓶の口が輸送システムにつながるようにする。止めたい時はまた筒を回して瓶を輸送システムから切り離す。この動作は一瞬で行なわれるので、スクリーンに見えているものとその匂いとを正確に一致させることができる。
輸送システムは、ポンプにつながったホースとして構成されている。ホースは館内の客席まで伸びていて、それぞれの客席の前には匂いの出る穴が開けてある。全部の客席に匂いを届けるためにポンプが使われる。
Smell-O-Visionを
制御する信号は、ビデオやオーディオと並んでフィルムに記録されている。この信号を映写機につけるアタッチメントで読み出し、貯蔵システムや輸送システムを制御する。
[Scent of Mystery]で使われたいろいろな匂いは、スイスのPantaleoni(パンタレオーニ、Raoul)によって開発された。
Pantaleoniは
DuPontの研究所の所長として香料の研究をしていたが、55年に独立してスイスに
Alpineという会社を設立したばかりだった。Pantaleoniは
[Scent of Mystery]のために少なくとも14種類の香料を開発した(▽図)。
焼きたてのパン |
パイプたばこの煙り |
春の草の強い草いきれ |
鼻につく安っぽい香水 |
にんにく |
靴クリーム |
"極めてすばらしくも美しい"
謎の香り
(=Scent of Mystery)
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(ほか)
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初めにそれは動いた(1895)!
そしてそれは語るようになった(1927)!
今それは匂いを放つ!!!
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27年に映画が語るようになったというのはもちろん
[ジャズシンガー](Jazz Singer, 27)のことを指している。Smell-O-Visionは、サイレント映画がトーキ映画に発展したのと同じような革命だと言っているのだ。
実際には、
[Scent of Mystery]に対する観客の評判はあまりよくなかった。
[Scent of Mystery]で嗅がされることになった匂い(△図)の多くが観客にとってはあまり気持ちのいい匂いではなかったのはその理由の一つだろう。雑誌や新聞の批評もSmell-O-Visionに対して冷たかった。こうして、期待されていたほどの動員は得られずに終った。
Smell-O-Visionを利用する作品は
[Scent of Mystery]だけしか作られなかったので、映画館に設置されたSmell-O-Visionはただのがらくたに変わった。しかし、20館以上の映画館がすでにSmell-O-Visionを導入していたと言われている。
Todd Jr.も、財産のすべてを失って映画から撤退した。
数年を経て、
[Scent of Mystery]は題名を[Holiday in Spain]に変えて、匂いはついていないただの映画として再公開された。ただ、
[Scent of Mystery]のテーマ曲は
Fisher(フィッシャー、Eddie。Taylorの当時の夫)と
Taylor(テーラー、Elizabeth。父
Toddが亡くなった時の妻)が歌っていて、それなりに売れたらしい。
Alpineは
[Scent of Mystery]での経験をばねにして成長を続け、110か国以上の化粧品メーカや石鹸/洗剤メーカと取引するほどになった。しかし78年に、あるもと社員が会社にやって来て、銃でPantaleoniと二人の職長を撃ち殺してから自殺した。
AromaRama
ここに描かれていることが信じられないのなら
息を深く吸え!
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この映画では、映画館の通常の空調システムを通して客席に匂いを流す手法が用いられた。この手法は
AromaRama(アロマラマ)とよばれた。
79年になって、合衆国と中国との対立が弛んでくると、合衆国の観客の中国への興味に応えようとしてか、
[La Muraglia Cinese]が合衆国でも
[Behind the Great Wall]の題名で公開されることになった。匂い映画への警戒はまだ強かったはずだが、AromaRamaはSmell-O-Visionとは違って特別な設備を必要とはしなかったので、多くの映画館で
[Behind the Great Wall]の上映が行なわれた。
しかし映画が作られた58年とは違って、この時期になると空調も進化していて、空気に異物が混じっているとそれを除去しようとしたり、停止したりするようになっていた。そのため、どの館でも上映できるというわけにはいかなかった。
Odorama
81年に、
Waters(ウォーターズ、John)が
[ポリエステル](Polyester)を発表した。
Watersは、(ほとんどいつも)ボルチモアを舞台にした、良識ある社会から嫌悪されているものたち(貧乏、女装、肥満、糞尿、...)の映画を作り続けてきた。
[ポリエステル]は、そうした立場から、くだらないキッチュとして無視されていた匂いつき映画へのオマージュとして作られた(と思う)。
Watersは、映画の進行に対応して匂いを制御するため、擦って嗅ぐ(scratch and sniff)方式を採用した。
観客は上映の前にスクラッチカード(▽図)を受け取る。このカードには1〜10の番号がついた●が印刷されていて、それぞれ異なった匂いがインクに閉じ込められていて、擦るとその匂いが染み出してくるようになっている。
上映の途中で、フレームの隅に点滅する番号が現われる。観客はそれに合せて自分でカードをスクラッチして匂いを嗅ぐ(嗅がされるというか)。
Watersはこの方式をOdorama(オドラマ)と名づけた。

花 |
おなら |
新車の内装 |
ピッツァ |
スカンク |
ガス |
接着剤 |
う○こ |
腐ったテニスシューズ |
ほか
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いちご |
ピーナッツバター |
花 |
臭い足の裏 |
ルートビアフロート |
魚 |
Watersは、Odoramaの実施については、カードを食べても安全かどうか確認するなどして、かなり真剣に取り組んでいた。
Watersには、
[Rugrats]がそれを気楽に流用しようとしているように見えたのかもしれない。
コンピュータ
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04-03-30