資料シート●各科目

可換の4角形

http://www.infonet.co.jp/apt/March/syllabus/bookshelf/rectangle.html




数の足し算とビット列の足し算の対応


 (自然な整数の)数の世界では、二つの数があればそれらの(sum)を考えることができる。同じように、ビット列の世界でも二つのビット列の(sum)を考えることができる。
 また、数の世界とビット列の世界とは、一括2進化法による符号化復号とによって対応している。
 これらの関係をまとめると▽図のようになっている。

2個の自然な整数

符号化
2個のビット列





整数

復号
ビット列

 この図のおもしろい所は、二つの整数を選んで左上から左下まで、書かれている作業を実行しながら進んで行くと、右側を回って行く遠回りのコース(緑のコース)を通っても、左側の近道のコース(赤のコース)を通っても、全く同じ結果になることだ。最初に(考えている長さのビット列で表せる範囲なら)どんな数を選んでもこれは変わらない。

[例]

3
4

符号化
××○○
×○××





7

復号
×○○○

 これはちょうど、符号化/復号のスクリーンを隔てて、整数の世界での和とビット列の世界の和とが、同じ一つのものの2種類の影になっているように見える。


数の大小とビット列の強弱の対応


 数には大小による順序が、ビット列には強弱による順序が決められている。これらと一括2進化法による符号化復号との関係をまとめると、▽図のようになっている。


2個の自然な整数

符号化
2個のビット列

大小


強弱
< = >

復号
< = >

 この図でも、二つの整数を選んで左上から左下まで、書かれている作業を実行しながら進んで行くと、右側を回って行く遠回りのコース(緑のコース)を通っても、左側の近道のコース(赤のコース)を通っても、全く同じ結果になる。

[例]

3
4

符号化
××○○
×○××

大小


強弱

あとの方が大きい

復号

あとの方が大きい


可換の4角形


 和や順序の場合のように、数の世界とビット列の世界とでは、多くの操作に対して、赤のコースを行く代わりに緑のコースを行っても同じ結果が得られる。
 一般に、集合と集合とを操作(変換や演算)の矢印で結んでいくと、近道のコースと遠回りのコースとができて、どの元から始めても二つのコースの行き着く先が同じになることがたまにある。このような関係を可換の4角形という。

 赤いコースは緑のコースに比べて回り道になっているように見えるけれど、意味を考えなくても決められた手順にしたがって記号を操作するだけで実行できてしまうから、単純な機械に代わりにさせるのに向いている。実体とその表現との間に可換の4角形ができていれば、実体についての加工がその表現の加工で代用できる。つまり、表現を記録/通信だけでなく加工にも使うことができる。

 メディアを扱う技術では、もとのもの(たとえば数)の代わりにほかの形式で表された符号(たとえば一括2進化符号)やその複合体を扱うことが多い。しかし、もとの実体と表現との間にいつでも可換の4角形ができているとは限らない。符号の操作によって実体も操作できれば仕事が楽になるけれど、仕事の前に、実体とその表現との間に可換の4角形ができているかどうかをきちんと確かめておかなければいけない。





Q  可換の4角形って当たり前じゃないの?それができたからってなぜそんなにうれしいの?

A  可換の4角形ができるってのは当然のことなんかじゃないよ。
 たとえば平方根の和を求める場合について考えてみよう。もとの数(つまり平方)なら単純な数なのに、平方根の方は端数のつく数になることがよくあるね。もし、それぞれの平方が分かっていて、しかもそれが単純な数だったら、素直に和を求める代わりに、平方の方を足してから平方根を出してそれでいいことにしたいって思うよね。
 3は9の平方根、4は16の平方根だ。この2個の数にで、それでうまくいくか試してみよう(この例だともともと簡単な数だからじかに足したっていいんだけど)。平方の方で足してもとに戻すやり方だと結果は5になる(▽図)。


平方化

3
4

9
16

足し算

5

25

平方根化


 実際には、この2個の数の和は7(▽図)だ。上の方法では正しい結果が出せないってことがこれで分かる。




3
4
 



足し算

7
 





 この場合は、平方根の代わりにその引数を足してその平方根を求めると5になる(緑のコース)。それなのに、それぞれの平方根をちゃんと求めて3と4を足すと7になっている(赤のコース)。二つのコースは、始点は同じなのに終点は一致していない。
 実は、ほとんどのものごとやことがらは、翻訳した世界で加工してからもとに戻した(緑のコース)ものと、もとの世界で加工した(赤のコース)ものとは同じにはならない。二つのコースが同じになるようにするためには、対応をうまく仕掛けておかなければいけないんだ。


Q  赤のコースは1手順ですむのに緑のコースは3手順。遠回りのコースをわざわざ作ってそれがふつうのコースと同じだからってなぜうれしいの?

A  長さは伸びたみたいに見えるけど、速く走れるようになったからだよ。緑のコースなら機械的にできるけど(だからコンピュータにだってさせられる)、赤のコースは意味が分かってないとできない。ちょうど、遠回りでも舗装された道を車で行くのと、山の中の近道を歩いて行くのとの違いみたいなもんだね。それに、行ってすぐ帰ってくるんじゃなくて、向こうで何度も足し算をすることにでもなれば、この差はもっとはっきりするだろうね。



メディアテクノロジー論 

Copyleft(C) 1998-03, by Studio-ID(ISIHARA WATARU). All rights reserved.


最新更新
03-09-02

このページはインフォネットのウェブサーバに載せていただいて発信しています