資料シート/[三月劇場]

プラキシノスコープ
Praxinoscope

http://www.infonet.co.jp/apt/March/syllabus/bookshelf/Praxinoscope.html




 プラキシノスコープ(Praxinoscope)は、映画(厳密にはシネマトグラフ)以前のビデオシステムの一つで、循環型のビデオを再生することができる。

 循環型のビデオ(=同じ運動を1〜3秒の周期で好きなだけくり返すタイプのビデオ)の再生を可能にするシステムは、すでに1832年のゾートロープ(Zoetrope)によってほとんど完成していた。ゾートロープに残されていた課題は、再生されるビデオが点滅しているように見えてしまうことだった。
 この点滅は、フレームの交替を隠すためにスリットを使っていたので、フレームが見えている時間が再生している時間に対して圧倒的に少ない(▽図)ということに原因があった。



 フランスのReynaud(レーノー、Emile、1844-1918。▽図)は、ビデオによる表現をめぐって、システムの開発から作品の制作、さらには上映の企画やパフォーマンスに至るまで幅広い活動を展開していた(今だったらきっとメディアアーティストって呼ばれてただろうね)。Reynaudは自然科学の教員をしたこともあって光学には詳しかった([秋田])ので、ゾートロープの欠点を補う方法を発見し、その成果をプラキシノスコープとして発表した。そして、1877年には正式に特許を取得した([秋田])。
 プラキシノスコープは1878年のパリ万国博覧会にも出品されて賞賛を得た([秋田])。



Reynaud
(資料[Cinema]より)

 プラキシノスコープの記録体は、環になるようにした1本の開いた帯で、そこにフレームの絵が一定の間隔ごとに描かれている(▽図)。本質的な構造は、今のムービフィルムと全く変わらない。



記録体を外して伸ばしたところ
(資料[Cinema]より)

 プラキシノスコープからビデオを再生するには、専用のプレーヤ(▽図)を使う。



プラキシノスコープ
(資料[Cinema]より)

 プレーヤの中核は、手で回せるようになっている大きい円筒だ(▽図)。この円筒の内側にビデオが記録されている記録体を巻きつける。
 円筒の内側にはもう一つの小さい円筒が取りつけてあって、その外側には、鏡が正多面柱になるように張りつけてある。



円筒

 円筒を回しながら内側の円筒を見ると、視線の正面の鏡の中で絵が動いているように見える。
 これは、正面の鏡に、その真向かい(観客の手前でちょうど裏を向けているので直接には見えない所)の絵が間欠的に反射して見えるからで、この瞬間と次の瞬間の絵の反射像は全く同じ位置に現われる。しかも、どれかの鏡が正面を向いた瞬間しか反射像は見えないので、流れないくっきりとした像が見える(▽図)。
 このことによって、ビデオの再生に必要な条件が揃い、絵が動いているように見える。



(資料[Gronemeyer]より)

 ゾートロープなどのそれまでの(スリットを使っている)システムとは違って、プラキシノスコープでは像が隠されて何も見えなくなる時間が存在しない。つまり、次のフレームに交替するまでのかなり長い時間にわたって鏡の中には(ほぼ)静止した状態のフレームの像が維持されている。このことによって、プラキシノスコープは点滅をなくしてしまうことに成功した。
 一方で、スリットの機能を代わりに受け持つ精巧な(=何枚もの鏡を正確な角度でつなぎ合せた)プレーヤがプラキシノスコープには必要になった。そのため、プラキシノスコープは、それまでのシステムとは違ってプレーヤが自立した商品として販売されるような(それなりに)高価なシステムになってしまった。
 さらに、プレーヤの中には、プレーヤのしかけを直接には見せないように覗き窓を作り、これをちょうど劇場のステージの額縁幕に見立てて、背景になる室内を合成してビデオを再生できるようにしたものもあった(そのための差し替え背景も作られた)。しかし、この改良は同時に何人もで鑑賞できるというゾートロープの特徴を失わさせることになった。

 プラキシノスコープも含めて、それまでの先駆的なビデオシステムには、循環型のアニメーションしか扱えないという大きな制約があった。そこで、Raynaudはさらに研究を重ね、原理的にはどんな長さのビデオでも(実際には1〜2分ぐらい)再生できるシステムとしてテアトルオプティーク(Theatre Optique、光の劇場)を完成した。しかし、これは大掛かりなプレーヤを必要とするもので、個人がタイトルを再生することはできなくなり、公共的な施設(具体的にはパリのクレバン博物館)で興行を行なうための手段に変質していた。




参考にした資料

秋田孝宏
「コマ」から「フィルム」へ
−マンガとマンガ映画−
(NTT出版, 05-08-04)

The Museum of the Moving Image (assoc.)
Cinema
Eyewitness Guide Series
(Dorling Kindersley Limited, 92)


ジャンクション



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