資料シート●各科目

メディア

http://www.infonet.co.jp/apt/March/syllabus/bookshelf/media.html




 "メディア"(media)ということばはいろいろな意味で使われている。困ったことに、その意味は違うのに、登場する文脈(context。時+所+状況)は同じなので、一人が"メディア"と言った時の意味と、もう一人がやっぱり"メディア"と言った時の意味とが、食い違っているのに両方ともしばらくそれに気がつかないということがよく起る。
 この食い違いを放っておくと、あるものがメディアなのかそうでないかとか、あるものとあるものとがメディアとして同じかどうかとかについて、むだな議論をしなければならなくなる。それに加えてもっと嫌なのは、メディアに関連してあることがらを気にすることに意味があるかないかで話が合わなくなってしまうことだ。
 メディアについての学習を始める前に、自分が学習しようとしている"メディア"がどの意味で言う"メディア"なのか、それに対してほかの人は"メディア"と言われたら何を想像するのか、それは同じなのか違っているのかを、よく理解しておこう。


四つの"メディア"
記録媒体 通信媒体


メディア格安
コンピュータCD 350円 50枚
ノーブランド品
 このような文章を広告の中でよく見かける。ここでは、"メディア"ということばは、情報を記録しておくための材料という意味で使われている。
 コンピュータの関連で情報を記録するのに使われる材料としては、CD(Compact Disc)のほかに、FD(floppy disk)、MO(magneto-optical disk)、DVDなどがある。これらは形状や特性の違いによってそれぞれさらにいろんな種類に分かれている。
 動く画像(と音)を録画するのに使われる材料としては、DVテープVHSテープなどのビデオテープ、上にも出てきたDVD、35mmの映画フィルムなどがある。
 音の記録に使う材料としては、MD(Mini-Disc)、オーディオカセット、レコードなどがある。
 いつもは情報の記録だとは意識しないで使っているけれど、字や絵を書くのに使う紙もこの意味ではメディアの一つだ。
 これらはまとめて記録媒体と呼ばれている。
 また、"メディア"ということばは情報を通信するための材料という意味で使われることもある。こちらは通信媒体ともよばれている。
 記録媒体の例としてあげたメディアは、どれも、情報を記録したのを郵便で送ることができるから、同時に通信媒体だと考えることもできる。そのほかには、いろんな種類の電波や、銅線ケーブルや光ケーブルなどの通信媒体もある。
 記録媒体にしても通信媒体にしても、ある情報が、ある人(またはコンピュータなどの機器)からほかの人の手に渡るまで、その情報を預かっておく容器だと考えることができる。

 記録は時間を隔てて情報を伝えることだし、通信は空間を隔てて情報を伝えることだから、記録と通信はそもそもよく似ている。

 情報の容器という意味での"メディア"は、いつもの生活の中でもよく使うことばだ。そこでは、それぞれのメディアの形状や特性や(最初の例のように)値段などが問題になる。



塩田紳二
ストレージデバイス
ASCII、Vol.29、No.4 (05-04)、p.178-179


四つの"メディア"
情報の形式


 ウェブはマルチメディアである。ウェブは書籍をメタファとしながら、書籍がこれまでカバーしてきたテキスト、図、写真に止どまらず、さらにビデオ、サウンド、あるいは仮想的空間さえも含んだ多様なメディアを有機的に結合したものとして構成される。
 ここではメディアの例として、テキスト、図、写真、ビデオ、サウンド、仮想的空間が挙げられている。つまり、ここでは、"メディア"は情報の形式という意味で使われている(→[情報の形式の体系])。

 この意味での論点は、あるメディアが視覚や聴覚などのどの感覚に対応しているか、また、感覚される物理学的な現象とそれを生じさせた意味とのどちらにより近いか、そしてそれらの間での変換はできるかできないか、という方向に向けられる。そして、その応用として、そのメディアを洗練して秀れた規格(たとえば絵や写真の場合ならGIFやJPEGのような)を作り出すことができないかということも論点になる。
 コンピュータ科学での"メディア"は、この意味で使われることが多い。マルチメディアという複合語の中に現れているメディアもこの意味で使われている。

 そもそも、"マルチメディア"ということばも、時代によって意味が変化している。現在の"マルチメディア"の意味はもう説明したとおりだが、1980年の前後にも短命なマルチメディアブームがあって、その時は、このことばは少し違う意味で使われていた。
 80年の"マルチメディア"は、コンピュータ用以外の記録媒体に音やビデオを記録しておいて、その再生をコンピュータで同時にコントロールすることによって、複合的な効果を生み出そうとするものだった。
 媒体としてはLD(Laserdisc)やVHD、CD、ベータマックスやVHSなどのビデオテープ、オーディオカセットなどの適用が試みられていた。これは、当時のコンピュータ用の媒体では、ハードディスクでせいぜい数百MB、フロッピなどのリムーバル媒体になるとたった1MBの情報しか記録できず、しかも速度からしてビデオや音の再生がとても可能ではなかったことを考えれば当然の傾向だったといえるだろう。
 80年のマルチメディアと現代のマルチメディアとを比べてみるとおもしろい。80年代のマルチメディアが記録媒体(つまりメディア)の多層化だったのに対して、現代のマルチメディアは情報の形式(これもメディア)の多層化だ。つまり、同じ"マルチメディア"なのに、"メディア"の部分だけ意味が挿し変ってしまっていることになる。


四つの"メディア"
情報サービス


...裁判所がニュースなどの映像を証拠として採用したことに対して、メディア各社は"報道の自由が損なわれる危険がある"として、警戒の念を強め...
 このような記事を新聞やTVの報道の中で見かける。ここにも"メディア"ということばが登場するが、この"メディア"は報道や娯楽のために情報をまとめたり作り出した配ったりしてくれるサービスを意味している。具体的には、新聞やTV、ラジオや、映画、ビデオソフト、ミュージックソフトなどを指している。

 "サービス"と言っても商売というつもりではない。誰かの利益になるように作用する無形のものを作り出す行動というだけの意味にとってほしい。

 日本では、90年代に、コンピュータで再生できるCDソフトや衛星放送、ウェブなどの新しい情報サービスが爆発的に登場した。これらは一まとめにニューメディアとよばれていたが、この"メディア"も同じ意味で使われている。
 この意味でのメディアは、少し前までは企業や政府、自治体などによって、多くの人々に向かって提供されることが多かったので、マスコミュニケーション(mass communication)とよばれてきた。ところが最近になって、ウェブのような、個人からそれほど多くはない人々に向かって提供される情報サービスが登場し、それがこれまでのタイプの情報サービスに比べて無視できない力を持つようになってきたこともあって、より広い意味に使える"メディア"ということばが代わりに使われるようになってきた。
 この"メディア"が表現する対象は、これまでの節に登場した"メディア"が表現するものとはかなり食い違っている。しかし、もっと重要なのは、"メディア"ということばを使って、何について考えるのかという目的の違いだ。
 こちらの方の意味で"メディア"ということばを使う場合は、それがどのようにはたらくのか、どうすればそのはたらきを変えたり変わらないようにしたりできるのか、またはどのようにそのはたらきが変わっていこうとしているのかが問題になっている。
 社会科学で"メディア"ということばが使われる場合は、この意味と、次で説明する意味で使われることが多い。



音好宏
メディアは弱点自問を
読売新聞、05-03-12、p.13


四つの"メディア"
社会につながるためのアタッチメント


 人間は、ことばや手振りを使って考えていることや感じていることを他人に伝えることができる。また逆に、それを聞いたり見たりして受け入れることもできる。このような、自分と、他人や社会との間での影響のやり取りには、約束(言語のような)や道具(紙と鉛筆のような)や制度(インタネットのような)が用いられる。これらはちょうど、コンピュータにソフトウェアやハードウェアを追加して特別な処理に使うのと同じように、人間に追加することのできる、他人や社会と自分とをつなぐためのアタッチメントだと考えることができる。これも"メディア"とよばれている。
 McLuhan(マクルーハン, Marshall)は、"Understanding Media"の中で、"メディア"の意味をこのように定義したうえで、当時の合衆国で急速に発展していたいろいろなものごと(車やメークまでも)を、メディアとして理解してみようと提案した。それからは、これも、社会科学におけるもう一つの意味での"メディア"になっている。
 こちらの意味で"メディア"ということばが使われる場合は、それがどう機能するかとか、どう変化していくかということに加えて、それを人間はどう受け入れているか(コンピュータならインストールに当たるだろう)ということも大切な論点になる。もちろん、対象の範囲も一つ前の"メディア"に比べてずっと広い。分野も同じなので、行き違いには注意しよう。
 芸術の分野には、表現の姿勢の一つとしてメディアアート(media art)という考え方がある。メディアアートにかかわっている人々は、その"メディア"ということばに対して(重みはいろいろだろうけれど)こうした意味を感じているはずだ。



コンピュータ


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