レコードもCDも、円盤に渦巻形の溝が刻まれていて、その深さの変化によって音を記録するようになっている。溝の深さを先頭から末尾に向かって順に読んで/書いていくには、ヘッドが溝に沿って動いていくようにしておいてから、円盤を一定の速さで回転させればいい。
ところで、円盤を回転させる場合は、速さといっても二通りの意味が考えられる。
一般には、もの(人や車)が移動する速さは、一定の時間の間に移動した道のりの長さ(正確に言うと位置の変化)で表す。たとえば、地上でものを落とすと、落ち始めてから1秒後の速さはどんなものでも約9.8m/秒になる。車の速さを60km/時(=時速60km)などで表すのもこれに当たる。
回転の速さは、このように表すこともあるが、一定の時間での角度の変化(または何周するか)で表すことも多い。特に区別したい場合は、初めの方の表し方を線速度(ふつうはただ速さといえばこちらの方を意味する)、あとの方の表し方を角速度という。
角速度は時間あたりの回転数で、線速度は足元に見える道の流れ方の速さだと考えておくといい。円盤の一周は半径に比例するから、軸の近くでは一周が短く、縁の近くでは一周が長い。つまり、角速度が同じでも、軸の近くと縁の近くとでは線速度は同じにはならない。軸の近くでは速く、縁の近くでは遅いことになる。逆に、軸の近くでも縁の近くでも線速度が変わらないようにするためには、軸の近くを歩いている時は角速度を上げ、縁の近くを歩いている時は角速度を下げるようにしなければならない。
角速度が一定になるように円盤を回転させるのをCAVといい、線速度が一定になるように円盤を回転させるのをCLVという。モータなどの回転はふつうに作ればCAVになってしまう。CLVを実現するには、いつも読み書きしている場所が軸から縁までのうちのどこか調べていて、それに合せてモータの回転を調節しなければならない。
回転の軸から遠い所では一周が長く、近い所では一周が短い。そのため、角速度が一定でも、外周の方が内周より線速度は速くなる。CDは記録できる部分の最内径が50mm、最外径が116mm(盤全体の直径は120mm)で2倍以上なのでこの差は大きい。
CDは、外周でも内周でも線速度が一定になるように作られている。つまり、CDでは外周でも内周でも1秒分の音を記録するのに必要な溝の長さは1.2〜1.4m/秒で一定だ。また、それを実際の音の進行に合せて録音/再生しなければならないので、CDレコーダ/プレーヤは、ヘッドが内周にいる時と外周にいる時とでは角速度が変化するように作られている。CDは、ヘッドが最も内側にいる時には約600回転/分の角速度で回り、最も外側にいる時には約200回転/分で回っている。その代わり、1秒の間にヘッドの下を通り過ぎて行く溝の長さは軸の近くでも遠くでも変わらない。このため、CDでは演奏の最初の方でも最後の方でもノイズの乗り方は一定で変化しない。
DVDも線速度を一定に保つようになっていて、角速度は約2000回転/分から約1000回転/分まで変化する。
このしくみは、回っている間に角速度を自由に変化させることができるモータが作れるようになってからやっと実現された。
最近では使われなくなってきたが、DVDが普及する前は、ムービを記録する円板式のシステムとしてLD(LaserDisc)が使われていた。
LDには標準ディスクと長時間ディスクとの二つの方式がある。最初に登場したのは標準ディスクだ。標準ディスクは、角速度が一定で、溝は円周形で(つまり一周して閉じている)5万4000本/面の溝が同心円状に並んでいる。このそれぞれに1フレーム分の絵と音が記録されている。標準ディスクはポースやスローなどの特別な再生が簡単に実現できるという長所があった。しかし、両面でも約1時間しか記録できないため、途中でディスクを入れ替えないと一般的なソフトウェア(特に劇場用映画)が再生できないという欠点があった。
LDほどの大きさになると、外周の溝の長さは内周の3倍にもなる。角速度が一定の場合、そこに内周と同じ量の情報しか記録していないので、実はまだ余裕が残っていた。このむだを活かすために角速度ではなく線速度を一定に変えて作られたのが長時間ディスクで、標準ディスクと同じ画質で両面なら約2時間の録画が可能になった。溝はレコードやCDと同じように1本/面のらせん状の線になっている。長時間ディスクは最終的には標準ディスクと完全に置き換わった。
レコードはCAVで回転するようになっている。 レコードは歴史が長いので、いろいろな速さの方式が登場しては消えてきた。現在では、45回転/秒の方式と33+1/3回転の方式とが使い分けられている。
レコードでは、円盤の軸に近い所の方が、縁に近い所よりも、1秒の間にヘッドの下を通り過ぎて行く溝の長さが短くなってしまう。つまり、同じ1秒の演奏なのに、軸に近い所では縁に近い所よりもずっと短い部分に詰め込んで記録しなければならないことになってしまう。このため、レコードでは演奏の最後の方ほどノイズが乗りやすくなる。これを内周歪みという。
ビデオテープは軸に巻いてあるが、本体は帯形なので線速度が一定になるように作られている。
VHSの標準モードの場合、速さは3.335cm/秒に定められている。