コンピュータやカメラ、バイクなど、シリーズになっていてスペックに幅がある製品は、識別を目的とした番号やスペックを表す数、その他機能を表すアルファベットからなる機種名がついている。カメラなら
F2や
FX2000スーパーなどのFシリーズ、バイクは
CB-FOURなどという具合である(
*00)。
このように、機能や順番を表す数が機械類の機種名に使われているというだけなら、あえて報告する必要はない。興味深いのは、機種名に含まれている数が、何かの順番を表しているように見えながら、必ずしもそうではなかったり、順番であったとしても、メーカーによって降順/昇順の統一を見ないということである。
例えば、先ほど述べたカメラのFシリーズは、
Fに始まり 、
F2、
F3と続く。機能もそれなりに充実していくので、機種名につけられている数は製品のスペックの高さを表わす
番号であり、したがってその
大小には意味があると考えられる。消費者も、機種名の数を見てスペックの上下を読み取れる。
しかし、ペンタックスのMZシリーズではどうだろうか。最高機種は
MZ3で、次に
MZ5、そして
MZ10、
MZ50と続く。数が飛んでいるのはよしとして、この数をFシリーズのようなスペックの上下を表わす番号として受け取ると大きな誤解が生じることになる。つまり "FシリーズではF4よりもF5のほうがスペックが上なのだから、MZシリーズでもMZ3よりもMZ5のほうが上位の機種だろう" と考えるとしたら、それは誤解である。
実は、カメラ業界では、上位機種から降順に機種名に番号をふっていく場合と、昇順に番号をふっていく場合があり、これはメーカーによって、またシリーズによって様々なのである(
*01)。
前者の場合、最初に開発された機種の名に1の数を盛り込んでおけば、その上位の機種がリリースされた時にはそれを2に変えて新しい機種名とすることができる。後者ではこの点が不便である。たとえば、1まで改良機種を作ってしまったら、それよりも上位の機種ができた時にはどうするのだろうか。
初心者にとっては、このおかしな習慣はしばしば混乱のもとになる。カメラの機種名につけられた番号が、グレードの上下を示していたとしても、それが降順か昇順かを知るには、そのシリーズのカメラのグレードと機種名の持つ数を見比べてみるほかはない。カメラの機種名からその機種のグレードを想像することは不可能なのである。
*00
実際のところ、F2の"2"とは、ニコンのFシリーズで2番目にメジャーチェンジされたもの、の意であるが、もう一方の"2000"とは、シャッタースピードが2000 分の1、という意味である。
また、バイクの"FOUR"はエンジンが4気筒であることを表している。
*01
後者のような現象が起こる原因の一つは、ニコンのF、キャノンのF1という名前のカメラの存在にある。
これらのカメラは、その歴史やそれにまつわるエピソードなどの影響で名機のイメージをもっている。ニコンF(1959年)は、その丈夫さとシステム性から、アポロ計画でも使用され、日本製カメラの信頼性をいっきに世界に知らしめた機種である。映画[マディソン郡の橋]にも登場している。一方、キャノンF1(1971年)もプロの定番機として有名である。
これらのヒーローのおかげで、1という数を与えられた機種は名機のイメージを獲得するのである。また、1でなくてもそれに近い数を持つ機種ほど名機に近いというイメージも生まれる。最近発売されたコンタックスのN1などはその典型である。
ところで、おもしろいことに、ニコンの同Fとその後継のF3とでは、スペック的にはF3のほうがはるかに優れているにもかかわらず、中古市場では、Fのほうがずっと高値で取り引きされていたりするのである。F3の中古価格は5万からせいぜい8万円であるのに対して、Fは2万〜30万円にも達する。
参考資料
(著者未確認)、
中古カメラゲット!、CAPA、97-07臨時増刊、(学習研究社)