制作ノート


(タイトル)

[水の影]


(クリッカブルサムネール)


[MANDALA]プロジェクト参加中


 このページの内容は、実際には制作に着手していない作品の構想を断片のまま記録したものです。


 [水の影]の構想は、グループ[KATARIBE]によるインスタレーション作品[HAKO MANDALA]の制作の過程でもたらされた。[HAKO MANDALA]のユニットCでは、視覚的要素として[水の影]の原型ともいうべき映像を素材として用いている。

 厳密には水の影ができるわけではない。正確には水面にできる波の影とよばれるべきである。

 映画[ユージュアルサスペクツ]のオープニングは波の影によって構成されている。

 曲面を透過した光は、透過した曲面素の方向によって異なる方向に屈折する。したがって、水底では、到達する光が少ない領域、多い領域、さらに二重に光を受ける領域ができる。それらが全体として水の影を形作る。

 水面は、平行な光線の束に対応する法平面を水底に連続に写像する。その写像は全単射ではない。

 光の多重度の変化する境界は曲線をなす。この曲線は領域ごとにカタストロフィー理論に基づいて分類できる。この文脈では、水面と水の影との関係は、カタストロフィー曲面と制御平面との関係に対応づけられる。

 燕の尾、蝶の羽。岩井俊二。

 光の方向が一定でなく、つまり、あらゆる方向の光が混在する環境では、水底における明るさの差は本来のばらばらな光の方向に埋もれてしまい、明確ではなくなる。したがって、水の影は人工の照明のもとでは意識されにくい。太陽の光によって水面が照らされている場合により明瞭である。

 水底を照らす光源がほかにない、したがって、唯一の平行な光線が照明されている状況で、最も明瞭に現われる。

 水は容器の方円にしたがう。水面も、したがって水の影も。たとえば、上下左右に対して均等な水の影を得るには、できれば円形の、実用としては正方形の容器が必要である。

 波の高さは表面張力の強さなどの水の物性に基づいて決定される。したがって、影の濃淡を生じさせる曲面の傾斜も束縛される。たとえば、波の細かさには限界がある。しかし、界面活性剤を用いて表面張力を減らしてやれば、より細かい模様が得られるようになるかもしれない。

 水面が滑らかな曲面をなす限り、水の影は破れない。つまり、全く光が届かない領域は生じない。ほとんどの自然な波に対して、水面は滑らかである。例外の一つは渦が生じる場合で、その影は黒い円板として現われる。渦を生じさせる方法の一つとして、棒を水面に突き立てて、それをそのまますばやく動かすと、軌跡に沿って両脇にいくつもの渦が生じる。

 渦を生じさせるには、十分に広い水面が必要である。

 もう一つの例外は、水滴などが着水したあとの跳ね返りである。

 水滴の着水。波紋。同心円。

 容器の底にスピーカを置いて、音の振動で波紋を生じさせることもできる。この場合、音の内容を制御することによってパタンを制御することができる。

 ゆさぶりまたは揉み込み。平行波。平行な直線群。

 2本の棒で交互に水面を連打すると鱗形のパタンが現われる。

 容器の壁の反射ともとの波とが干渉し合うとより複雑なパタンを生じる。壁の形が水の影に及ぼす影響は大きい。

 物体の表面をデザインする情報システムは、細かいおうとつをバンプマップとして取り扱う。バンプマップでは、曲面の微細なおうとつの浅深、または傾斜の緩急をグレースケールのスチルの濃淡と同様に表現する。バンプマップと水の影とは別のものであるが関連は深い。

 よく晴れた日に、風もなく、池の底は泥が積もってなだらかにまどろんでいる。水面を虫が走ると、小さな波が起こり、それはそこここから突き上げている蓮の茎に反射したり、回折して新たな波紋をそこに生じさせたりしながら、やがて静かに減衰していく。


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[三月劇場]


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