研究ノート/[三月劇場]

パーカッシブマニピュレータ

石原亘
常磐大学 人間科学部



[MANDALA]プロジェクト参加中




概要


 この研究で開発しようとしているのは、VRシステムの入力機能要素です。パーカッシブマニピュレータ(仮名)といいます。
 パーカッシブマニピュレータを叩くと、VR物体が実際に叩かれたのと同じように反応して運動を起こします。また、叩いた音がします。
 この研究は、本来の目標である、視覚で直接には感覚できない物理学的属性をも記述できるVR記述言語を開発することの一歩として行なおうとしています。研究の全体の計画に対する位相を図(上からソース言語、ターゲット言語、表示されるグラフィックスのイメージ、入力装置)に示します。この研究は図の左下の部分に当たります





本文


 パーカッシブマニピュレータ(マーク0)の概観はこのようになっています。





概観


 図のように、立方体の六つの面(もしかすると稜線や頂点でもいいかもしれない)のどれかをスティックで叩くと、立方体の内部に貼りつけられている六つのピックアップマイクがその衝撃を拾います。これらの信号はアナログ信号のパルスとして電子ドラムの外部入力端子に入り、ベロシティが識別できる6チャネルのMIDI信号に変換されてコンピュータに送られます。
 コンピュータは、これらのMIDI信号を解析して、表示しているバーチャル物体に対して打撃が与えられたと解釈して、打撃の向きと強さを導出します。
 アプリケーションは、こうして得られた打撃と物体の物理学的属性を考慮して物体に運動を生じさせ、そのアニメーションを表示します。また、打撃によって生じたと感じられる音を発音します。
 パーカッシブマニピュレータは物体の物理学的属性を操作-反応フィードバックを通じて提示するのに有効です。パーカッシブマニピュレータをベースにして構築できる提示機能には、ほかの同じ目的のシステムにはない好ましい特徴を与えることができます。
操作にともなう反作用をオペレータの手に触覚としてフィードバックしませんが、メタファとしてリアリティを損ないません
・オペレータの手をグローブで包まなくてもすみます
・オペレータの手を信号をやりとりするためのケーブルでつながなくてもすみます
・妥当なスループットが安価に得られます
・反応の一部として音が自然に組み込めます


課題


○MIDI信号は同一の打撃に対して微妙に異なる時刻に分かれてコンピュータに到着するかもしれません。それらをどう統合するか
○1〜6個のMIDI信号から、もとの打撃の強さと方向を導出するにはどうするか
○物体が複数ある場合に、どの物体に対する打撃なのか指定できなければいけません。どうすればリアリティを失わないで自然に指定させられるか



戦略



○全体の研究の流れを考えると、この課題については遅くとも97年の夏休み中にデモンストレーションができる状態にする必要があります。これは可能だと思います
○ピックアップマイクはローランドTSC-10(下図)を使います





○電子ドラムにはローランドTD-5(下図)を使います。ローランドTD-5は同時に8件のトリガを受け付けることができるので、将来のバージョンではこれを全部活用できるようにピックアップの配置を工夫するのがいいかもしれません





○当面はMacintoshコンピュータの上で走らせられるMAXプログラムとして信号を分析するモジュールとそれを呼び出すデモンストレーションを作ります。ただし、将来はこれをVRML2.0に切り替えるかもしれません
MAXはフランスのIRCAMで開発されたビジュアルプログラミング言語およびその開発環境(扱:カメオインタラクティブ)です。
MAXはユーザインタフェースの研究や芸術に広く使われているので、ほかの同じ分野のプロジェクトとの連携の可能性が確保できます。
MAXはビジュアルプログラミング環境を備えているので開発が容易です。
MAXのモジュールはMAXでもC++でもコーディングできるので、プロトタイプも実用のシステムもこの中で開発できます。
VRML2.0は、実際にはまだ試しに使うことも難しい段階にあります。しかし、スペックなどは公開されていますから、当面の研究と並行して調べておきます。中でも、ビヘビアの機能は役立ちそうなので、特に念入りに調べておく必要があります。
○この研究に続く次の段階では、研究の本流として非視覚的属性の記述の形式をデータベースとしてデザインし、パーカッシブマニピュレータによって反応するMAXインスタンスをそこから自動的に生成できるようにします
○装置を立方体から、方向についてより均質で自然な球体に変えたいと思います。
・球体の場合は打撃ベクトルの導出に使うモデルが複雑になるかもしれません
・逆にそれを完成させたからといって、本来の目標である非視覚的属性の記述の応用の例としてはそれほど意味がないかもしれません。したがって、本流の研究の展開によってはこのまま保留するかもしれません
・もしかすると球体ならマイクの数を減らせるかもしれません。そしてスループットをもっと多くできるかもしれません



発表



石原亘
(研究ノート)
パーカッシブマニピュレータ
自然なフィードバックを実現する力入力装置の提案
常磐大学人間科学部紀要:人間科学, Vol.15, No.2, pp.53-60 (常磐大学、98-03-25)



近況



○マニピュレータの本体とも言える箱の材質の選び方は重要です。アクリルや金属では密度が高いので、想定している大きさでは全部のセンサが同じ打撃をセンスしてしまい、ベロシティの差を拾えません。茎か葉のようなものを編んでできているスリランカの茶のケースをたまたま見つけたので、これで試してみようと思っています。
(97-08-14)





○所属している芸術集団[KATARIBE]の97-05の京都でのグループ展の発表[HAKO-MANDALA]のために、遮断センサからの信号に反応して逃げるオブジェクトのアニメーションを制作しています。ここで、[MAX]による各種のアニメーションの制御をきちんと経験しておこうと思います。また、質量をもったオブジェクトの自然な反応について、コラボレータと活発な議論ができることを期待しています
(97-03-10)

○[bit]別冊の[Javaプログラミング例題集]に、VRML2のビヘビアをJavaで書くという記事が載っています。これまで、VRML2のビヘビアのメソッド(?)はどうやって実現するのかわからなかったんですがこれで勉強できそうです。なお、この本にはウィン/マック兼用のCDがついています

○開発に使うMacintoshコンピュータにメモリを増設して、合計で48MBまで使えるようにしました。また、C++開発環境として[SymantecC++]を導入しました

MAX、電子ドラム、ピックアップマイクは手に入りました

MAXは95年の[鏡の寓話]で使ったことがありますが、今回の研究ではグラフィックス機能を使うので、そのための勉強が必要です。これはMAXが手に入ったらすぐに始めなければなりません

[SymantecC++]MAXのモジュールを開発する方法については参考書が見つかりました。これもMAXが手に入ったら実験できるようになります

VRML2.0のことを調べるため、公式のSpecificationとその和訳を調達しました。ビヘビアの解説を中心に少しずつ読んでいくつもりです


[参考文献]

参考文献



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