ひろのぶ氏の
"hack"の語源
http://www.vacia.is.tohoku.ac.jp/ ~s-yamane/hackersML/papers/etymology.txt
について、MITに留学してコンピュータや文学関係の翻訳もしている山形浩生氏はもう少し広いバックグラウンドで説明補足している。
"hack"について
http://www.post1.com/ home/hiyori13/freeware/hack.html
これはプログラミングで"hack up"とか"Quick hack"という時のニュアンスを捉えているし、ハッカーという言葉が開拓者精神を感じさせる結縁もとらえている。またMITの伝統のなかでファインマンに言及するのも目が行き届いている。
(僕はミンスキーを強調するけど:-p。)
ただし、語義を語る時にはアナクロニズム(時代のとりちがえ)におちいる可能性があるので注意しなければならない。
たとえばキャプテン-クランチは登場したときから(Levyの本でも)phreaksと呼ばれていたが、山形氏の世俗的用法だと彼がハッカーだったということになる。さらにスターリングがノンフィクション作品の中で電話交換手までもハッカーとして描くのはアナクロニズムの極みである。 彼がその気になればニュートンでもエジソンでも下手なマニアでもハッカーの範疇に含められるだろう。 だが、それで何かものを言いあてたことになるとは僕には思えない。似ているというだけ。
僕はこういった「語源学的存在了解」のもっともらしさを警戒している(テキスト言語学にはうるさいのです)。なぜなら、そもそもコンピュータの発展がなければハッカーという言葉が(MIT周辺以外には)流布しなかったという単純な歴史的事実を見えにくくするから。(最悪の場合、語源学的アナクロニズムはナチズムとかの歴史の捏造に利用される。)
そこで、僕はこう考える。辞書をひくのはやめよう。むしろ、MIT周辺のhackの伝統の中からコンピュータハッカーが新しい用法を創造したと考えてはどうだろうか。 それをコンピュータ以外、あるいはMIT以前にあてはめる時は注意しなければならない。 僕はその断絶を強調するためにかつて「ハッキング」がMITで「発明」されたという言葉を使ったことがある。
hackers1950-1990s
http://www.vacia.is.tohoku.ac.jp/ ~s-yamane/hackersML/papers/hackers.html
そういうわけで僕はひろのぶ氏とも山形氏とも流儀が違う。 僕が採用する辞書があるとしたら、RFCの用語集だけだ。 ただし、辞書を調べなきゃ安心できない人には、二人の使う説明を使う時もある。 「人を見て法を説け」といいますから。
最後に余談だけど言語学的な学説の話を。
いまのところ、ハッカーはコンピュータ界の造語だと考えているのは僕だけじゃないかと思っていたけど、実はもう一人いる。 Jargon Fileの編者(というよりFetchmailや「伽藍とバザール」の作者といった方が有名だな)、ESRが1997年に
その歴史は初期のタイムシェアリングミニコンピュータや黎明期のARPAnet の経験にまで遡ることができます。このような 文化を担ってきた者たちが "ハッカー hacker" という言葉を造語しました
と書いている。
How To Become A Hacker
http://epsenewsc.gee.kyoto-u.ac.jp/ JF/JF-ftp/other-formats/hacker.html
というわけでこれを
ハッカーの語源に関するESR仮説と呼ぶことにしよう:-)。
Happy Hacking!