[左耳の精霊]
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八雲神社(川尻)稲荷


 御影が神社裏手の林の中を稲荷に向かって登ってくる。

水樹の声「ある死人の消えたる翌日、三滝の寺男が言うに、丑三つ刻に腰に鈴をつけたる女の鐘を三度突く者有りとのこと也。村人、その女、おりんに違い無しと噂せしも、魔物との繋がりは口にしかねる也。只、心無き者の内に狐などの憑きしこともありと囁く者も出でし也。その内に畏れに心駆られ、堪忍能わざりし男どもが闇に乗じておりんをさらい、三滝の鐘とともに八雲の裏の稲荷の林に生きたまま埋めてしまいける也。同時に、おりんが夫の姿、忽ちの内に異形の魔物と化し、この世ならぬ叫びとともに、羅漢が山へと失せにける也。村人、この鬼がおりんを慕いて、夫に姿を変えしことを知りける也」

(狐の踊りのインサートカット:すすきの中、逆光を背にキツネの面をかぶった男達がゆっくりとうごめいている。時々ピタッといっせいに静止してあたりをうかがうしぐさ。暗黒舞踏のイメージ)

 うらさびれた稲荷に呆然とする御影。どこからか、鐘の音。
 と、突然、御影の背後で明確な鈴の音。
 振り返ると、そこに女狐(おりん)がいる。

女狐の声「鬼は山へ、いんだ」

 御影の足元に鈴が落ちる。
 チャリン!



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98-09-10