*********************************************************  《メディア・シアター「鏡の寓話」》開催企画書(950731) ********************************************************* [タイトル]   メディア・インスタレーション《メディア・シアター − 鏡の寓話》 [サブタイトル]   インタラクティブ・ビデオ・サウンド・インスタレーション [関連催しタイトル]   この催しは《日独メディア・アート・フェスティバル京都'95》の一環として行   なわれる [日時・場所]   1995年10月17日(火)〜22日(日),11:00AM〜6:30PM   ギャラリー楽(京都造形芸術大学・京都芸術短期大学内) [製作スタッフ]                    企画・制作+音響構成+映像/中村滋延                          空間構成+立体/山田 実                映像+コンピュータ・グラフィックス/石原 亘                    システム・エンジニアリング/長嶋洋一                    システム協力/イメージ情報科学研究所                             制作協力/鳥越 卓 [助成・協力・後援・問い合わせ先]   助成/日本芸術文化振興基金   機材協力/松下電器産業株式会社   後援/京都造形芸術大学・京都芸術短期大学   問い合わせ/中村滋延(e-mail:GGB00251@niftyserve.or.jp)         〒569大阪府高槻市高槻町12-1,Tel.0726-81-4905 [内容概略]   《メディア・シアター − 鏡の寓話》はインタラクティブ・ビデオ・サウンド・イ   ンスタレーションである.それは空間全体が作品であり,観客はその空間を歩き回   る.そしてその観客自身の動きに反応してその空間にインタラクティブに生起する   出来事を,目と耳の両方を使って鑑賞するのである. [会場]   ギャラリー楽   〒606京都市左京区北白川瓜生山2-116   京都芸術短期大学   Tel.075-791-9121(代表)   JR京都駅,阪急河原町,京阪三条から,市バス5系統「岩倉」(あるいは「修学院」   行き),上終町(かみはてちょう)下車すぐ.   あるいは,叡山電車茶山駅下車,東へ徒歩約10分   (地図省略) ====================================== [メディア・シアター「鏡の寓話」構成について]                              中 村 滋 延 1. 空間構成案 1.1. 1辺900ミリの正立方体の黒い箱30個(5個×6列)がギャラリー会場に整然と設    置されている.その箱の前面には正四角形の窓が少し傾いた状態で開いている.    その箱の中にはテレビモニターが1個づつ仕込まれている.もちろん,テレビモ    ニターの画面は箱の窓に接している.すべての箱の窓はギャラリーの入口とは反    対の方向を向いて設置されている.したがって,ギャラリーに入ったばかりの観    客は黒い箱ばかりを眺めることになる.観客は箱の前にまわりこんで,始めてモ    ニターを目にすることになる.入口から最も遠いところに立つと,テレビモニ    ター画面がうつしだされた箱の窓の群を眺めることが出来る. 1.2. 箱というオブジェそのものには具体的な意味を与えていない.箱は正立方体とい    う幾何学的な単なるオブジェである.なおかつそれが縦・横直線的に整然と幾何    学的に配列されている.したがって構成の基本はミニマルなものである. 1.3. 1辺900ミリという箱のサイズは,空間全体を俯瞰できる高さであると共に,箱    のひとつひとつを注視できる高さでもある.観客は全体を見てそれがミニマルな    構成であることを体感すると同時に,箱の窓にあるテレビモニターをひとつづつ    見てその個別の表情をたのしむことも出来る.つまり個と全体を観客自らが再構    成できる素材の大きさである. 2. 映像構成案 2.1. 映像も空間のミニマルな構成に対応して,そのモチーフが限定される.そのモ    チーフは〈人間の顔〉である.つまり,テレビモニターの中の人間の正面を向い    た顔がギャラリーいっぱいに整然と,まさにミニマルな構成で並ぶことになる.    多くの場合,その顔はある特定の一人の人物の顔で統一される.ミニマルな構成    をゆらす要素として,その顔の表情が変化したり,顔の映像にエフェクトが付け    られたり,他の人物の顔が挿入されたりすることがある. 2.2. 顔の具体的なモデルとしては,このインスタレーションの三人の製作スタッフの    顔が主に使われる.ギャラリーすべてのモニターにスタッフAの顔が2分間,次    にスタッフBの顔が2分間,またその次にスタッフCの顔が2分間,というよう    に顔の素材が切り替わって映る.顔の切り替えの時には,非常に多くの人の顔が    短いフレーム単位で次々と切り替わり登場する. 2.3. 顔をモチーフとしたのは次の3つの理由によっている.まず,箱や全体配置の幾    何学的な構成に対する対照としての意味からである.次に,人の顔は,それがど    のようなものであれ,それを見ているものに多くのものを語りかけてくる,言わ    ばメッセージの発信体であるからである.つまり,わずかな表情の変化にも見て    いるものはそこから情報を得ようとするがごとく,人の注意を集中させるために    は好都合な素材でなのである.そして,テレビモニターを鏡の譬喩ととらえた時    に,鏡に映るものとしてはまさに顔が最適の素材と考えるからである. 2.4. 顔のモデルを製作スタッフを選んだのは次の3つの理由によっている.まず,鏡    としてのテレビモニターに映るものとしては,その場(製作の場であり,展示の    場であるギャラリー)に一番関わりの深いスタッフの顔が他のいずれの顔よりも    必然性がある.つまり他の顔を映すと,その顔を映す意味を新たにそこに付与し    なければならないからである.次に,映像が時間を扱う装置であるととらえた時    に,作品(インスタレーション)が現出している製作者の現在と,映像に写し取    られた製作者の過去という対比の関係が,テレビモニターに映る製作者の顔によ    って生じてくるからである.そして次にこの種の作品の製作が自己表現という側    面を強く持っている限り,自己顕示のひとつとして自らの顔を作品の中に取り込ん    でしまうことは,過去の芸術家が度々行なってきたことなのである. 3. 映像の系列化 3.0. なお,映像はその上映システムに対応する形で次の5系列に分れる. 3.1. 系列1《固定連動/動画》;タイムコードで同期して動く3台のビデオデッキか    らの映像を,そのまま3つとも映す.この3つの映像はほとんど同じものである    が,わずかな時間的ズレを伴い,時に無関係な映像が挿入されたりすることもあ    る.インタラクティブ性はなく,映像全体のベース的役割を担い,ギャラリー内    の一番多数のテレビモニターをこの系列の映像が占める.2.2.に述べられた内容    は,この系列の映像に一番顕著に見られることになる. 3.2. 系列2《固定選択/動画》;3台のビデオデッキからの映像をひとつだけ選択し    て映す.この選択はセンサーからの信号を受けてなされる.従ってインタラクテ    ィブ性がある. 3.3. 系列3《自由選択/動画》;Macintosh上の複数の映像シーケンスの中から一つ    だけを選択して映す.この選択はセンサーからの信号を受けてなされる.従って    インタラクティブ性がある.系列3と異なり,選択の幅は大きい. 3.4. 系列4《自由選択/静止画》;Macintosh上の複数の静止画データの中から一つ    だけを選択して映す.この選択はセンサーからの信号を受けてなされる.従って    インタラクティブ性がある.選択の可能性は系列3よりも多く設定する. 3.5. 系列5《固定/静止画》;デジタルカメラで撮影した同一の静止画(3人の顔が    重なった静止画)を映し放しにしておく.インタラクティブ性はない.ただし,    この系列5に関しては,これを系列1にすべて置き換える可能性も大きい.(実    はこの映像はホログラフィであれば一番理想的なのだが.) 4. 音響構成案 4.1. 音響はすべて人間の声を素材にする.その理由は3つある.まず,映像の素材が    人間の顔であるということとの関連で人間の声を素材にし,空間全体の視覚と聴    覚の出来事の統一性を確保したいからである.次に,声は最も原初的な楽器であ    って,現代的先鋭的表現をしても,どこかに親しみやすさを残すからである.そ    して声は言葉を伝えるメディアであり,言葉との関連で他の音以上に人は耳をそば    だてるであろうと思うからである.つまり,意味的に無関係な音素が並んでいて    も,人は聴き做しによってそこに言葉を聞き取ろうとするのであり,それだけに    耳を音に集中させようとするのである. 4.2. 音響も上映システムに対応する形で系列化がなされる. 4.2.1.映像の系列1《固定連動/動画》のタイムコードに連動する形で8チャンネルの    MTRに固定された音響が空間分離的(8箇所に分散されたスピーカ)に鳴らされ    る.これが音響構成の全体のベース的役割を担う.顔の切り替え時には人の声を    素材にした動的な音響が主体となる.この場合の声は日常の話し声から取られ,    それらの集合によるコラージュがこの音響となる.その他の時はきわめて静的で    やや機械的な音響と,人の声のつぶやきによる持続音が鳴らされる.また,映像    の変化に対応する形でこの音響にもエピソード的変化が加えられることもある. 4.2.2.系列2・3・4の映像に対して働くセンサーはすべて音響に対しても働く.セン    サーを通して観客との間でインタラクティブに鳴らされる音響はサンプラーに入    っている人の声の音素(発音の最小単位)を素材としている.これらの音も空間    分離的(15チャンネル,15の音源)に鳴らされる.そこでの様々な音素の偶然の結    び付きは,音楽的であると同時に,聴き做しによる言葉としても聴き取ることも    できる音響となる. 5. 仕掛け構成案 5.1. 系列1についてはSMPTEボード付きのSONY/EVO9850のHi8ビデオデッキをメインに    して,SONY/EVO9720のHi8ビデオダブルデッキを同期走行させる(つまり3つの    ビデオテープが同期走行する).音響を担当するのはSMPTEボード付きのTASCAM/    DA88のデジタルMTR(多重録音)デッキであり,これは,SMPTEタイムコードで    EVO9850を完全同期する.DA88からは8つのAudio outから音が分離して出力され    る. 5.2. 系列2・3・4のインタラクティブな仕掛けに用いられるセンサーは赤外線セン    サー(OMRON/E3JKの光電スイッチ)である.これは赤外線が遮られた状態がスイ    ッチオンになるように設定されている.この赤外線センサーはNew Hyperと呼ば    れる特別製のインターフェイスに接続される.このNew Hyperは赤外線センサー    のスイッチ・オンの情報をMIDI情報に変換するインターフェイスである.この    New Hyperは,赤外線を遮る速度の違いによって1個の赤外線センサーから3つ    のMIDIノートナンバーを派生させる.全部で15個の赤外線センサーがNew Hyper    には接続可能であり,したがって都合45のMIDIノートナンバーを派生することが    出来る. 5.3. 系列2においては3つビデオデッキを同時走行させ,インタラクティブな仕掛け    によってモニターに映すべきビデオデッキを選択する.New Hyperから出たMIDI    情報はMacintoshコンピュータに入り,Macintosh上のソフトMAXはそのMIDI情報    (ノートナンバー)をビデオセレクター(特別製)のビデオデッキ選択信号に変    換する. 5.4. 系列3においては,Macintoshコンピュータに取り込まれた複数のQuick Time    Movie形式の動画情報を,インタラクティブな仕掛けによって選択する.New    Hyperから出たMIDI情報はMacintoshコンピュータに入り,Macintosh上のソフト    MAXはそのMIDI情報(ノートナンバー)をモニターに映すべき動画情報の選択信    号に変換する. 5.5. 系列4においては,系列3の仕掛けとほぼ同様である.相違点は動画ではなくて    静止画であること,したがってQuick Time Movie形式ではないことである. 6. 使用機材予定リスト 6.1. 映像関係: 6.1.1.テレビモニター=29インチのものが30台;1辺900ミリの正立方体の黒い箱30個    (5個×6列)のすべての中にこのモニターが1個づつ仕込まれる.このテレビモ    ニターは映像用ばかりでなく,音声・音響もそのスピーカを利用して鳴らす(テ    レビモニターは外部からの音声信号に対してアンプ機能がある). 6.1.2.ビデオデッキ=6台;系列1と2で3台づつのビデオデッキが必要となる.実際に    は系列1においてはダブルデッキを1台使用する予定なので,台数においては5台    となる. 6.1.3.デジタルスティルカメラ用デッキ=1台;系列5用の機材である.ただし系列5    を系列1に置き換える可能性もあり,その時には不要となる. 6.1.4.Macintoshコンピュータ=2台;映像を扱うことが可能でビデオ出力のボードが入    った大容量メモリー&ハードディスクの機種が2台. 6.1.5.セレクター(1個の映像入力を数個の出力にする機器)=数個 6.2. 音響関係: 6.2.1.デジタルMTR(多重録音)デッキ,TASCAM/DA88=1台 6.2.2.MIDIデジタルサンプラー,AKAI/S950=2台 6.2.3.マルチプル・ジャック(1個の音声入力を数個の出力にする機器)=数個 6.3. 仕掛け関係: 6.3.1.Macintoshコンピュータ=3台;MAXを動かすためのもの.ただし,MAXのプログラ    ム如何によっては,1台で可能になるかも知れない. 6.3.2.(OMRON/E3JKの光電スイッチ)=15台;箱に中に巧みに組み込んで観客にはその    存在を感じさせないようにする. 6.3.3.New Hyper(特別製のインターフェイス)=1台